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桜井パンタロンの創作小説

インスパイア

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 四月二十五日午前九時。とあるマンションの一室。神谷真一は、今からそこへある男に会いに行く。男を自らの手で殺そうとしている。躊躇うことは何もない。これも全て復讐する為であるから。
 インターホンを押す。
 何の疑いもせずにドアは開かれた。ドアを少し開け神谷の姿を見た。ドアには用心の為かチェーンがかかっている。
 神谷は、手に持つ小さな箱を見せ、「お届け物です」と言った。
「はい」
 パジャマ姿の女は眠気眼で応対した。
ドアチェーンを外す。宅配業者に扮している神谷の姿に疑いを持っていないようだ。女は、神谷から手荷物を受け取り中に何が入っているのかを確認している。
 神谷は、ジャケットのポケットにしまっていた拳銃を取り女のこめかみにあてた。
 女は何事かと神谷を凝視した。
「何!?」
 神谷が拳銃をこめかみにあてている姿に女は戸惑いを隠せない様子であった。
 強く銃口を突きつける。
「だから、一体何の真似よ!?」
 神谷は、無言で女の首に手をまわしこめかみに銃を突きつけ、部屋の中へ侵入する。
 寝室へ行くと男が寝ていたので、女に男を起こせと命令する。
「なんだよ」
 男は、自分が置かれている立場を気づくことなく気だるそうに目をこする。
 女の姿を目の当たりにして状況を把握したのか、男は震え始めた。
「お、お前誰だよ!?」
 神谷は、女を羽交い絞めにしながら辺りを見渡す。
「佐藤真由子を録画しているテープはどこだ?」
「なんだよ、それ?」
「だから、テープだよ? お前、須藤雄二だろ? 知っているはずだ。俺の姉を殺した須藤だろ?」
 須藤は、神谷が持っている銃が本物ではないと思ったのであろう、枕元に置いてあるタバコに火をつけた。安心している様子である。
「須藤? 俺は、須藤じゃねーよ」
 男は、鼻から紫煙を吹き出す。
 佐藤の渡した写真と表札を見て須藤本人であるのは明確であった。神谷自身も十年前の記憶をさかのぼれば須藤の顔が浮かんだ。

「こいつ、処女だぜ! うえっ! 血がついちまった」

 姉の上に跨り腰を激しく動かす須藤。幼い神谷は、ただその光景を傍観しているしかなかった。姉を助けられない自分が憎くて仕方がない。須藤の姿を見ると足がすくんでしまいそうであった。だが、それは許されない。石渡達――十年前、姉を強姦して殺害したこの五名に復讐しなければ神谷が苦しみ生きたこの十年間が無駄になってしまうのだ。
「姉さん……」
 神谷は、姉の微笑む姿を瞼に映した。

 女は、須藤の顔を見つめ怯えている。女の足が小刻みに震えていた。躊躇うことは何もない。
神谷は、引き金を抜いた。
乾いた銃声音が響く。それと共に女はその場で崩れ落ちた。女のこめかみからとび散った鮮血が顔に付着してしまった。神谷は、それを皮手袋の上から拭う。顔中が真紅に染まっている。
 須藤は、目を見開き神谷を見た。あっけに取られ、口からタバコが落ちてしまった。落ちたタバコの火でシーツが焼け焦げていた。
 須藤は、ベッドから飛び降りてすぐさま神谷の前にひれ伏した。
「あの時はすまない。本当に悪い事をした。俺は、ただ頼まれてやっただけなんだよ!」
神谷の足にすがり、「殺さないでくれ」と泣きついている。頼まれただと。人に罪を着せるつもりでいるのか。神谷は、冷静に須藤の額に銃口をむける。トランクス一枚でなんとも情けない姿である。寝起きである為か、それともこれから女と一戦交えようとしていたのか股間は膨らんでいた。
「俺の姉を殺して、お前はのうのうと女のヒモになって生活をしているのか? お前にとって誠意はないのか!?」
「い、いつか誤りに行こうと思っていました!」
 須藤は、何度も床に頭を擦りつけ誤った。佐藤の調査で須藤が現在無職であり女性の収入源を頼りに生活をしていると聞いていた。
「嘘をつけ!!!」
 神谷は、今にも引き金を抜きそうな勢いである。須藤は、恐怖のあまり失禁をした。股間部分は尿で濡れている。
「すいません。すいません」
 何度も誤るのだが、神谷にはその言葉は届いていなかった。誠の言葉ではないと悟っているからである。
 須藤の頬を強く殴る。何度も頬を殴った。須藤の左頬は腫れ上がり内出血をしていた。それでも神谷の手は止まらずにいた。
「助けてくれー」
 神谷は、須藤の顔面を蹴り飛ばした。須藤は、勢い良く倒れる。神谷が近づいて行くと須藤は、横這いになり服従の意を示した。
 神谷のポケットにしまっていた携帯電話のバイヴレーションが振動する。
「神谷さん」
「佐藤さん。どうしました?」
 神谷は、須藤の額に銃口を突きつけながら話をした。
「何をしているんです。時間がありませんよ」
「分かっています。ですが、姉に対しての懺悔を……」
「そんな事を須藤に求めても仕方がありません。早くテープを」
 たしかに須藤に懺悔を求めても無理なのだろう。神谷にも解っていた。だが、そのまま何も言わず殺すのは無念である。無駄でも良い。須藤に、謝罪をして欲しかった。それは、今ではなく十年前であるが。
「分かりました。テープのありかを聞き出します」
「宜しくお願いします」
 神谷は通話を切った。
「テープはどこだ?」
「テープ! あります! 持っています!」
 須藤は、涙ながらに答えた。
「立て!」
 神谷の言葉に須藤は立ち上がろうとするのだが、足が震え上手く立てずにいた。神谷は苛立ちが募りその場で射殺しそうになる。だが、テープを須藤から奪わなければならない。感情的である自分を戒め、冷静さを保つよう努めた。
 須藤がゆっくりと立ち上がり、テープがある場所へ誘導させた。
 神谷は、須藤の背中に銃をむけながら一緒に歩いて行く。
 ビデオを収納した棚から一本のテープを取り出した。ラベルは貼っていない。
 須藤にそのビデオテープをデッキに入れるよう命令する。
 須藤は、手が奮えて上手くビデオデッキにテープが入らないようだ。
 乱暴にテープが入る。神谷は、再生ボタンを押すように促した。
 テープが再生された。
 画面を見ると野外で撮影されたのだろうか、暗くて良く映像が見えなかった。だが、数人の男達が高笑いをして女性に暴行をくわえている様子である。
 一人の男が懐中電灯で女性の顔を照らし出した。
「違う!」
 その女性は、佐藤真由子ではなかった。
「あれ、どのテープだったかな!?」
 須藤はあわてふためいて棚から何本ものビデオテープを再生した。
すると、そこには確かに佐藤の姉が強姦されているシーンが映っていた。
「このテープはダイビングしているのか?」
 須藤は、首を横に振った。
「頼むから助けてくれ!」
懇願する須藤に神谷は、引き金をゆっくりと抜く。
須藤の目頭から上部にかけて、まるで林檎を屋上から落下させたかのように砕けた。脳が当たり一面に飛び散り洋服に付着してしまった。神谷は、飛び散った脳を手で払いのける。
 すぐさまテープをデッキから取り出した。ここにあるテープは、数十本とある。一応、念の為に確認する必要があるだろう。
一本ずつデッキにテープを入れて確認をした。
ドラマや映画を録画したテープがあったが、中にはレイプシーンを撮影しているテープもあった。どうやら、須藤の言っている事は本当のようだ。腕時計を見ると三十分も費やしてしまっていた。急いで戻らなければならない。
 玄関に置いていた箱を持ちマンションから姿を消した。
 マンション付近に一台のセダンが止まっている。神谷は、その車の助手席に乗り込む。
「神谷さん、テープはありましたか?」
 ハンドルを握る佐藤の言葉に神谷は頷いた。
 佐藤は、神谷の反応に笑みを浮かべ車を発進させた。

 
 神谷の復讐劇は今から十年前をさかのぼる。今でも忘れられない。いや、一生忘れる事など出来ないだろう。神谷は当時、九歳であった。友人の家から帰って来るといつものように首にぶら下げている鍵をドアに差し込んだ。
神谷には父がいなく、母と姉の三人で生活をしていた。父は、神谷が五歳の時に交通事故で他界してしまった。父はその日、飲酒運転をしていたそうだ。そして、赤信号を無視してわたったところ横から来た車と衝突してしまい死んでしまった。衝突した車の運転手と助手席にいた人も死んでしまったそうだ。遺族に対し残された母は、毎月の慰謝料を振り込んでいた。父の保険金は規約違反であったので下りる事はなかった。そんな事もあり母は、会社勤めで毎日帰宅じかんが遅かった。また、姉も家計を支える為にアルバイトをしていた。姉は、高校に進学するとすぐにアルバイトを始めた。母は学業が疎かになるからとアルバイトをする姉を辞めさせようと説得したのだが、「学業と両立するから」と母の反対を押し切り働く事にしたのだ。
 あの当時ですら、なかなか見る事もないであろう四畳半二部屋、風呂なしアパートに神谷家族は生活をしていた。生活をするだけで必死であった。父方、母方の祖父母も協力して慰謝料を負担してくれたのだが、それでも足りなかった。
 神谷は、いつも一人家でカップラーメンを食べて過ごしていた。
 鍵を開けるといつもは暗がりの部屋が、今日は明かりが灯していた。
「真一お帰り」
 姉が夕食の準備をしていた。制服のままエプロン姿で台所に向かっている姉の姿を見て神谷はとても嬉しかった。
「姉ちゃん、今日はバイト休みだったの?」
「そう。今日はね」
 神谷は、台所で調理する姉の横に立ち友人宅で遊んだ事や学校での出来事を話した。姉とも母とも会話をする機会がなかったので嬉しかった。
 姉とは、だいぶ年が離れているせいもあり互いに仲が良かった。姉は、とても優しく神谷と一緒に遊園地へ行ったり公園へ行ったりと遊んでくれた。神谷は、姉が大好きであった。姉にとって邪魔になる事もしばしあっただろうが、姉の後姿を見るといつも追いかけていた。そんな神谷を邪険に扱わずに優しく接してくれた。
二人でテーブルに並べた夕食を口にする。姉は、神谷の大好物であるハンバーグを作ってくれた。
「姉ちゃんあのね……」
 神谷の喋りは止まる事なく続く。姉は笑いながら、「真一ご飯が冷めちゃうよ」と言っていた。
 その時、ドアを叩く音がする。
 姉は、箸を止めて玄関へ向かった。
「どなたですか?」
 玄関越しから姉は応答する。
「○○急便です。お届け物を届けに来ました」
「はい」
 姉は、ドアを開ける。
 その瞬間、数人の男達が家の中へ土足で入り込んで来たのだ。
 姉の奇声が部屋中に響き渡る。
 ある男は、姉を取り押さえ、ある男はテーブルをひっくり返した。神谷は、何が起きたのかまるで意味が分からなかった。
 いきなり、男に殴りつけられ倒された。
 姉は、数人の男に囲まれている。口は、タオルで巻きつけられていた。
 神谷は、姉を助けようと必死に抵抗するのだが男の力には到底叶わなくひざまついているしかなかった。
 姉は、制服を剥ぎ取られ次々に強姦されていた。必死に抵抗しているのだが、それも虚しい行為であった。神谷は、そんな姿を男に見せつけられていた。目をつむろうとするのだが、無理矢理目をこじ開けられその行為を始終させるのだ。
 男達の笑い声がこだまする。
 姉の涙する姿に胸が締め付けられそうであった。
「殺してやりたい……」
 初めて抱いた衝動である。神谷が非力であるがゆえに姉を守る事が出来ない。自身が情けなく涙が止まらなかった。一体、なぜ俺達がこんな目に合わなければならないのだ。次々に犯される姉は、抵抗するのも止めて目をつむりじっと体を硬直させていた。
「つまらねー女だな!」
「まぐろじゃん」
「こいつ、処女だぜ! うえっ! 血がついちまった」
「どうするよ?」
 男達が話し合いをしている。神谷は、ロープで手足を縛られていたのでその場を動く事が出来なかった。姉は、男に馬乗りされている。
「もう十分楽しんだし良いだろう。殺しちゃおうぜ」
 ある男の言葉にその場にいた奴らも頷いた。ポケットから取り出したバタフライナイフで姉の首筋を切りつけた。姉は、口をタオルでしばられていた為に声を出す事も出来なかった。真紅の血が飛び散る。男達は、一人ずつ姉の全身を切り刻みつけていった。姉は、必死に全身をつかい抵抗するが男達に手足を押さえつけられていた。
 神谷は、そんな姿を目の当たりにして嗚咽がとまらなかった。
「ねえちゃーん!!!」
 神でも仏でも良い誰か姉を助けてください。そう天に願うがその願いも虚しく姉は息絶えてしまった。
 神谷は、姉の姿を見て嘔吐してしまった。畳に先程まで食べていたハンバーグの肉やご飯粒が辺りに飛び散った。
「このガキ、ゲロ吐きやがった。きもちわりーな」
「ほっとけ、帰ろうぜ」
 男達は、何事もなかったように玄関のドアを開け帰って行った。
 神谷は、男達の顔を目に焼き付けた。五人の男である。年齢から言えば姉と大差はないのであろう。まだ、幼さが残っていた。いつか、いつか俺がこの手で殺してやる。そう心に誓った。
 神谷は、手足の自由がきかない体を上手く使い姉に近づいた。
 姉は、目を閉じたままである。声をかけるのだが反応はなかった。このまま死んでしまっている方が姉の為に良いのかもしれない。そう思う自分がそこにはいた。
 
 数時間後、母が玄関のドアを開けるとその場で崩れ落ちてしまった。
 家中荒らされ、姉は裸体のまま血まみれである。そして、神谷は姉の傍でロープに縛られ涙を流している。
「お母さーん!」
「……」
 母の反応はなかった。

 犯行をした男達はすぐに逮捕された。地元に住む少年達であったのだ。姉の膣内に付着した体液と彼らの体液が一致して逮捕につながった。しかし、ここからが問題である。彼らが未成年と言う事で刑が軽く済んでしまうと言うのだ。母は、憤怒した。彼らには重い刑をかせるべきであると主張した。だが、担当である弁護士はやり手であったのであろう、裁判はある意味、少年達の勝訴であった。
 マスメディアは一時、騒いだのだがこのような少年犯罪は日常茶飯事であると言ってすぐに別の話題に飛び移っていった。誰にも訴える事が出来ず、彼ら両親からの謝罪も一切なかった。この世に神や仏はいないのであろう。
 母は、その後ノイローゼになりマンションの屋上から飛び降り自殺をした。幼い神谷を残して……。

「しんちゃん、ごめんなさい。お母さんはお姉ちゃんのいる所へ行きます」

 母の遺書である。学校から帰って来るとテーブルの上に置いていた。神谷は、それを見るとすぐさま外へ裸足で駆け出した。胸騒ぎがしてならなかった。
「お母さーん!」
 母を呼んでも返事はない。神谷はそれでも母を捜した。足の裏は、傷だらけになっていた。神谷も解っていた。母がいなくなる事を。どれだけ捜しても見つからなく、神谷は自宅へ戻った。するとそこには近隣のおばさんが沈痛な面持ちで待っていた。
「真一君、お母さんがね……」
 神谷は、悟った。母はもうこの世にいないのだと。
 母の葬儀はしめやかに執り行われた。父がおこした一件により神谷一家は、親族から縁を切られていた。母方、父方の祖父母が神谷の傍にずっといた。神谷は、無残にも顔の一部がなくなっている母の姿を見て涙した。何故、俺達がこのような目に合わなければならないのだ。ただ、平穏に暮らしたかっただけである。父さえ事件をおこさなければ姉も母ももしかしたら死なずにすんだのかもしれないと思った。父が憎らしくもあった。だが、それ以上に少年達が許せなかった。
 母が火葬場で遺体を燃やされる。
 煙突から黒煙が空に舞った。
 母は、自分を残し父や姉の住む世界へ旅立って行ったのだろう。
「安らかに眠ってください。後の事は、俺がやるから」
 神谷は心の中で呟いた。



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