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桜井パンタロンの創作小説

彼女が選んだ場所

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気丈な態度で彼女は話す。
「ごめん。正直に言うとあなた以外に好きな人が出来たの」
俺は慌ててしまって声が上ずる。
「そ、そんな……だって俺達、付き合ってまだ一ヶ月もたっていないじゃないか」
「ごめん……」
俺は、しばらく沈黙する。
「誤られても困るよ」
「ごめん……」
尚も彼女は毅然な態度だ。
「もう、元には戻れないのかな?」
俺は、下手に出たが彼女の意思は固まっていたようだ。
「うん。ごめん」
諦めるしかないと思った。
「分かったよ」
「それじゃ」
彼女は、そっけなく携帯の通話を切った。最近、合コンで知り合った女の子だった。
心の底から好きと言うわけではなかったけれど、でも相手側の押しの強さで付き合ったのでなんか拍子抜けした気分だ。
俺は何か心にシコリが残りつつ、今日は誰かを誘って呑む事にしようと思った。携帯のフリガナ検索で適当な相手を探す。
『高田さん』彼の名前を見つけ電話をする事にした。高田さんは同じ職場の五つ年上の先輩だ。彼とは、よく遊こともあり、時にはナンパをする仲なので気軽に相談が出来る。今日は、とことん呑む事にしよう。
高田さんに電話をかける。しかし、なかなか高田さんにつながらないでいた。
「誰かと遊んでいるのかな?」
何度目かに電話をすると高田さんに通じた。
「はい」
受話器ごしから雑音が聞こえる。どうやら、外にいるようだ。
「高田さん、今どこにいるんですか?」
雑音が聞こえる中、高田さんは大きな声で喋る。
「ああ。今、遠藤と横浜でナンパしているんだよ」
少々聞き辛いが、俺も大きな声で高田さんに聞こえるように喋った。
「えっマジですか! 俺も参加して良いですかね?」
俺は、上機嫌になり声のトーンが上がっている。
「お前、彼女いるだろう」
「あのう、彼女とは今さっき別れました」
俺は、力ない声で言う。
「えっ! マジで!」
高田さんは、げらげらと笑いだした。
「何で笑うんですか!?」
人事だと思ってと心の中で呟く。
「ごめん、ごめん。でも、俺もいつかは別れるんじゃないかと思っていたんだよね」
高田さんは、確信していたように言う。
「それ、どういう事ですか?」
俺はむっとなり聞き返す。
「なんて言うのかなーあの女スゲー派手じゃん。だから、遊んでいそうだし。いつか小田切が振られるんじゃないかって遠藤と賭けをしていたんだよね」
「ひどいな」
俺は、受話器越しで怒る。
「まあ、そう言うなって。俺達も今、横浜に来たばかりだから早くお前も用意して来いよ」
「はい。分かりました」
俺は、通話を切ると同時にさっそく風呂場へ直行して体を洗う事にした。やはり、女性と接触するのだから体を綺麗にしなければいけないと思った。
俺は、ここ、石原株式会社の男子寮に住んでいる。仕事内容は、単調な流れ作業を行っている。主に工場で使用する原料を入れる袋を作っているのだ。高校を卒業すると同時に自宅から離れ、寮住まいをすることにした。父から早く、自立を求められていたので俺は高校の就職相談でも必ず、寮付きの会社を探していた。夢なんてなかったし、ただ親元から離れられさえすれば良かったので今の会社に不満はない。ただ、給料の安さを除いては。
寮は、四畳半で風呂、トイレは共同になっている。風呂は十六時から二十二時までに入らなければいけない規則であった。
時計を見ると、十七時でちょうど良い時間帯だ。俺は、さっそくバスタオルと体を洗うタオルとシャンプー、石鹸を入れたカゴを一式持って風呂場へ向かった。寮の作りは鉄筋コンクリートで出来ていて四階建てだ。築二十年はかるく過ぎているだろう。俺は、そこの二階の205号室に住んでいる。寮を作ったのは、地方出身者の為だったようだが、現在は新卒でも地方出身者は取らなくなったようで、寮全体はガラ空きだ。大抵、地元に住んでいる人達は自宅通いをしている。
風呂場は、一階にあるのでいちいち下に降りて行くのが面倒くさい。今のような冬の時期は特にそうだ。二月とは言え、まだ春の兆しは見えてこない。パジャマ姿で、風呂場へ向かう。
脱衣所には、島田さんがいた。島田さん――通称ジャンボ。身長が百九十センチ近くあるので安易な発想だが皆こう呼ぶ。
「ジャンボさんも風呂に入っていたんですか?」
ジャンボさんの体からは湯気がたっていた。
「おう、そうだよ」
ジャンボさんは、ゆったりとした口調で答えた。今年で、三十路を迎えるジャンボさんは現在も彼女が出来た事がないそうだ。そう、この会社はやけに独身者が多い。それは、女子社員が少ないせいでもあるけれど、なぜか男共は一癖も二癖もあるツワモノばかりだからだ。
ジャンボさんの趣味もアニメで。主に美少女を扱った類が好みだ。一度、部屋に入った事があるが、知らない声優のポスターや美少女キャラのポストカード等が部屋に飾ってあった。ジャンボさん以外にもこのような趣味を持っている人達ばかりでアイドルオタクや鉄道マニア等が存在する。話が合わなく、俺はあまり会話をした事がないけれど、皆大人しく良い人達だ……と思う。
「ジャンボさん。俺、今さっき彼女に振られちゃいましたよ」
俺は衣服を脱ぎながら喋りかける。
ジャンボさんはバスタオルで短く刈り上げた髪を拭いている。
「そうか、まあ次があるさ」
ジャンボさんは、さりげなくそう言うと脱衣所を後にした。ジャンボさんにとって、生の女より画面を通した女の方がリアルなのかもしれない。この会社は極端で、こんないわゆるオタクから女好きでナンパや合コンばかり開いている連中と二極に別れていた。俺は、会社に入った当初わけも分からなく連れられた合コンがきっかけで高田さん達と遊ぶ事になった。ファッションから女の口説き方も彼から教わった。どちらかと言えば、今の人生の方がまだマシなのだろうと思う。
シャワーを頭から浴び、急いでシャンプーをする。もたもたしている余裕はない。ここから、電車で横浜に向かうと早くても一時間はかかるので早くことを済まさなければならない。俺は、勢いよく石鹸をボディータオルに擦りつけ体を洗う。泡が周りに飛び散り、隣にいた五十過ぎのおっさんが嫌な顔をしていた。しかし、俺はおかまいなしに体を洗い。そのままシャンプーと石鹸を頭から流してさっぱりした。ヒゲもちゃんと剃ったし完璧だろう。体も完璧に拭ききれていないままトランクス姿で部屋に戻った。
さっそく、洋服ダンスから適当な服を選ぶ。
黒のパンツを穿き、白とピンクのストライプ柄のシャツを着て、ワインレッドのベロアジャケットを羽織る。まるで、ファッション雑誌をそのまま模写した格好で俺は、お気に入りのブルガリの香水をお腹や首筋にふりかけて準備を整えた。鏡の前で鼻毛が出ていないか確認をする。よし、あとはピアスを付けて完璧だろう。左耳に銀色のボディーピアスを付ける。
時計を見ると十八時にさしかかっていた。やばい、早く駅に向かわなければ。
携帯と財布をジーンズのポケットに入れて部屋のカギを閉めた。自転車で駅に向かうと大体、急いでも十分はかかる。俺は、最寄り駅の武蔵溝の口でJR南武線の切符を購入した。ここからだと、武蔵小杉で東急東横線に乗り換えをした方が早いだろう。しかし、いちいち改札を降りて東急の駅まで向かうのが面倒だ。川崎で東海道線に乗り換え、横浜に向かう事にした。
案外、早く南武線が到着したので俺はさっと乗り、空いている席へ座った。電車に揺られ十分程、経つと高田さんから携帯メールが送られて来た。

送信者 高田さん
受信時間 十八時二十分
『おい、小田切! 今、ゲーセンでナンパした女がひっかかりそうだぞ! 早く来いよ』

俺は、すぐさま「あと四十分程で到着する」と返信した。

高田さんと遠藤さんは、凄くナンパ慣れをしている。週末になると、決まって横浜のゲームセンターでナンパをするのが定番らしい。
俺は、早く駅に到着しないかとそわそわしながら車窓越しに暗くなった街並みを眺めていた。俺は、うとうとしていつの間にか眠りについてしまった。

『次は、川崎ー川崎ー』
車内アナウンスが流れる。

はっとその声を聞いて我に返る。昨日が休日前と言う事で寮内の人達と朝方まで呑んでいたので少し疲れが残っていたのだろう。
俺は、東海道線に乗り換え横浜に向かう事にした。ここでも幸いにも電車がちょうど来たので助かった。休日でもあるにも関わらず、車内はスーツを着たおっさん達でごったがえしになっていた。まあ、この時間帯なら仕方がないだろうと思い、ぎゅうぎゅう詰めになりなんとか車内に入り込む。ぎゅうぎゅうに詰め込まれている中、上手い具合に携帯をポケットから取り出して、高田さんに「あと、十分程で駅に着く」とメールを送信した。おっさん達は、毎日こんな苦しい思いをして会社へ向かうなんてとても立派だと思う。自分は、寮から会社へ行くのは徒歩五分で済む距離なので大変ありがたい。
息苦しい十分間を通り過ぎようやく駅に到着する。俺は、すぐさま高田さんに電話をした。
「高田さん? 小田切です。今、横浜に到着しました」
やはり周りの雑音で聞き辛いらしく高田さんも大きな声で喋る。
「おお、俺達も今、東急ハンズの隣にあるゲーセンでナンパしているんだよ」
「ハンズですか」
俺は、あたりを見渡しながら喋る。
「そう、ハンズの隣な。まだ、女達と喋っている最中だからお前も早く来いよ」
「はい、分かりました」
俺は、電話を切ると走って改札口を出て東急ハンズのある西口ホームへと向かった。やはり、休日と言うこともあり街はカップルや高校生などで賑わっていた。走りたくても周りに人間が多すぎて、ゆっくりと歩いて行くしかない。俺は、先導に従いゆっくりと歩いて行く。
そして、東急ハンズ隣にあるゲームセンターに到着すると高田さんを探した。
高田さんは、UFOキャッチャーで遊んでいる女に声をかけていたようだ。
「高田さん」
俺が軽く肩を叩いて声をかけると高田さんは振り向いた。
「おお、待っていたぞ」
俺は、ゲームに夢中になっている女の子を眺めつつ小さな声で喋った。
「この子ですか?」
「そうそう、なかなか呑みに行ってくれないんだよね」
ゲームに没頭している、その女の体系は少し、ぽっちゃり気味だがロングの茶色い髪をして目鼻立ちも多少は整っていてまあまあの容姿だった。
「遠藤さんは?」
「ああ、遠藤は奥にいるこの女の友達を口説いているよ」
高田さんは、ゲームセンター内を指差して答える。
「そうなんですか。ちょっと遠藤さんのところへ行ってきますね」
「おう」
俺は、奥にいる遠藤さんの方へ向かった。
やはり、遠藤さんが話しをかけている女もUFOキャッチャーをしていて、まるで遠藤さんの話を聞いていないようだ。
「遠藤さん」
俺は、必死に女を口説いている彼の後ろからさりげなく声をかけた。
「おう、小田切!」
遠藤さんは、俺に気がつき振り向く。
「どうですか?」
俺は、小さな声で喋る。
「ダメなんだよねーちっとも話を聞いてくれないのよ」
遠藤さんは困った顔をしていた。
「別の子に声かけた方が手っ取り早いんじゃないんですか?」
俺は、遠藤さんに苦笑いをしながら喋る。
「いや、結構この子良い感じだよ」
遠藤さんの隣にいた女を見るとスレンダーで清楚な感じがする。目は切れ長で一重であったが、大きな瞳を持つ彼女を見た俺は先ほど外にいた女より好印象であった。
「なっ! なかなか良いだろ」
「そうですね」
俺は、頷いた。
「でも、遠藤さん……無理っぽいんでしょ?」
彼女の反応を見ながら喋る。
「うーん……そうなんだけど……高田さんも粘っているし小田切が来るまで頑張ろうって言ってさ」
「そうなんですか」
高田さんは、俺の為にやってくれているのだと思った。
「お前、彼女と別れたんだって?」
遠藤さんは、高田さんから事情を聞いていたらしく、にやついた顔をして聞いてきた。
「はい。高田さんから聞きました?」
俺は少しふてくされた顔をする。
「聞いたよ! 賭けは高田さんの勝ちだな」
「二人して本当にひどいんだから」
しばし、隣にいた女を無視して俺達は会話を楽しんでいた。
「小田切も話かけてみろよ」
「えっ!? 俺が話すんですか!?」
俺は、急に言われたので戸惑った。
「何、言っているんだよ! 今日の主役はお前だよ」
また遠藤さんは適当な事を言って俺に押し付けるんだからと思いつつ俺は女に声をかけることにした。
「こんばんは」
俺はゲームに夢中になっている女に声をかけた。彼女は一瞬、俺の顔を見るもまたゲームに没頭をしている。
「ふー」
ため息が出る。こちらが話しかけても無視をされてしまうとナンパは成功しないものだ。
再度、声をかけてみた。
「今日は、友達と遊んでいたの?」
「……」
返答がないので、俺はゲームをしている彼女の顔を覗きこみながら再度話しかけた。
「外で、友達がゲームをしていたからさ」
「……」
彼女は一向に話かけても返答がなかった。
「遠藤さん仕方がないですよ。他あたりましょう」
俺は、両手で大きくバツのポーズを取って彼に合図をした。
「そうだな」
遠藤さんは、残念そうな顔をする。
俺達は、外にいる高田さんのところへ向かった。
「高田さん」
遠藤さんが声をかける。
「おう」
高田さんは上機嫌だ。
「むこうの女、全く話をしてくれませんでしたよ」
俺は、むすっとした態度で喋る。
「そうなのか」
高田さんは尚も上機嫌だ。
「おい、小田切、遠藤」
「はい」
二人は声をそろえて返答する。
「呑み決定!」
高田さんは、ガッツポーズをとる。
「えっ!? マジですか!? どの子と!?」
俺は、あたりを見渡した。
「さっき、ここで話をしていた女だよ」
高田さんは、先ほどゲームを行っていた場所を指差す。
「えー高田さん凄いじゃないですか」
遠藤さんは、笑顔で言う。
「まあな」
高田さんは、満足気な顔をしていた。何気なく隣には、先ほどゲームに没頭をしていた、ぽっちゃり体系の女がヌイグルミを抱いていた。
「友達は良いって?」
俺は、その女に問いかける。
「茜には聞いていないから分からない」
どうやら先ほど話しかけても無視をしていた女の名前は茜と言う名前のようだ。
「茜が良いって言ったら順は行くよ」
女は、ぎゅっとヌイグルミを抱きしめ体を横に振った。
「えっ!? 順子ちゃんさっきと話が違うじゃないか」
高田さんは動揺している。
「あとは、茜に任せる」
順子と言う女はぎゅっと両手でクマのヌイグルミを抱いていた。この女、歳はいくつ位なんだろうと思いつつ俺が、茜と言う女を説得する事になった。

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