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桜井パンタロンの創作小説

水面から離れた魚

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「今、何時だ?」
暗い部屋の中、携帯の画面を覗く。
液晶画面が点灯した。
「まだ、十時じゃないか……」
僕は、布団に頭をすっぽり覆いかぶさり瞼を閉じた。

僕の部屋は、一年中雨戸を閉めている。そのうえ、遮光カーテンをしているので一切外部からの光が射してこない。いつも、何をするわけでもなく、一日中自宅の部屋に引きこもっているわけだ。部屋を空けない事により湿気臭く、それにインスタントラーメンの食べ残しをテーブルの上にそのまま置いてある。そのうえ部屋中、生ゴミやら自慰をおこなってふき取ったティッシュ等があちらこちらに散漫しているので、異臭が立ち込めている。
しかし、僕には全く感じられなかった。毎日の生活で鼻がいかれてしまったようだ。
部屋の隙間から臭いが微かに漏れていたらしく、三、四年前に一度、母が僕のいない隙を狙い清掃業者を呼んだ事があった。その日は、母が気前良く財布から二万円を出して、
「天気も良いのだから、これで外にでも遊びに行ってきなさい」と言った。
僕は、それを受け取ると早速、ネットで調べて、良さそうな風俗店に良く事にした。
そして、ことが終わり気分良く家に帰って来ると僕の部屋が小奇麗に片付いているではないか。部屋の中には、誰にも見られたくない物も少なからずあったのでかなり焦った。
きっと部屋にある僕の趣味がバレてしまったかもしれないと思った。僕は女子中学生の性行為を収めたビデオや水着等の着替えを隠し撮りしたものを鑑賞する事が唯一の趣味だった。当然、未成年なので一般に流通はしていないようだが、ネットで調べて目ぼしい業者を何件かピックアップして注文した。大抵、広告とは違う物が届くものだと思っていたが、いくつか注文した業者の中に優良業者に巡りあえたわけだ。
そんな物が見つかってはいけないと思っていたのに、しっかりと綺麗にビデオはダンボールの中にしまってあった。テープにラベルが付いていない事が救いだが、もしかしてビデオの中身を見てないだろうかと思い、母に強く問いただした。
しかし、母は業者に頼んだきり自分は部屋には入っていないと言った。僕は、その言葉が信用出来なかった。そして、頭に血が昇り突然母のわき腹めがけ足で強く蹴った。床にもたれうなだれている所を何度も腹部目掛けサッカーボールを蹴るように蹴った。
自分の気持ちがはれてようやくやめた時には、母は静かに小さくうずくまっていた。僕は我に返り、顔を辛そうにしかめている母を見て声をかけようと思ったが何を言えば良いいのか分からず黙って自分の部屋に入ってしまった。
それから、母も家族も僕の部屋に入る事はなくなった。僕が、このようになってから、我が家はもぬけの殻だ。会話もなくなりただ単調な日々を続けている。
現在、二十二歳になるが、今だ職歴はない。十八歳の時にこんな生活をいつまでも続けてはいけないと、一念発起して、アルバイトを始めようと思った事がある。母の勧めで、知り合いのコンビニ店でスタッフを募集していると聞いたので、僕は特別に面接をせずに入れてもらった。そこは、地元から駅二つ分離れた場所にあった。自転車で行けば三十分程で付くので苦ではないし、何より知っている奴に会わずに済むと思った。勤務時間も店長に拝領してもらい、朝や夕方を避けて深夜勤務のみにしてもらった。
しかし、初日になり僕は急に気だるくなった。行く気をなくし部屋で、ぼうっとインターネットをしていた。
母はドア越しから、さりげなくアルバイトの話をしようとしたが僕は沈黙を続けた。
こんな時、父は一切僕に関与する事はない。全て、母に任せているからだ。任せていると言うと聞こえが良いが、ようは押し付けているだけなのだ。
翌日、母はそのコンビニに電話をかけているらしく、ただ平謝りをしているのを部屋のドア越しから微かに聞こえた。
それから、僕は何もやる気になれず暇さえあれば母に金をせびり風俗に行くか、家でインターネットやテレビゲームをして過ごしていた。
二度寝から目を覚ますと正午になっていた。部屋の中が暗いので時間の感覚があまりない。
とりあえず、テレビを付けるとお馴染みのバラエティー番組が放送されていた。タレントのつまらないジョークに一喜一憂するお客達。もう、ずっと前から思っていたが司会者がどうもやる気がないように見える。息も長く今や国民的な長寿番組でもあるのだが、はっきり言って惰性でやっているようにしか見えなかった。まあ、この時間帯を真面目に見ている視聴者もいないのだろうから、これ位が丁度良いくらいなのかもしれないが。
それにしても、新しい年を迎えてもう半月以上も経っているのに今だ、テレビの世界は正月気分だ。
僕は、お腹が空いたので階段を下りて、キッチンに向かった。階段が冷たくなっているので、つま先立ちになりながら降りて行った。それでも、足の先から頭の先にまで冷たさが伝わる。平日なので、父や母は仕事に出掛けているので家には僕だけだ。
二つ下の弟がいるが今は、彼女と同棲生活をしているようで実家にはいない。
テーブルには、焼きそばと菓子パンが置いていた。僕は、働いていないのに腹が減るので、どうしようもない人間だと思った。
『働かざる物、食うべからず』と昔の人は言ったものだが、まさしくその通りだ。
付け加えるなら『働かざる物、生きるべからず』だな。でも、この先、死ぬ予定は立てていない。
最近、ネットで自殺願望者を募って一斉に練炭自殺を図る連中が増えているが僕はまっぴらごめんだ。こんな駄目な僕を絶望視している母や父は僕の事を殺そうとするかもしれないと考えた事もあった。しかし、還暦近い父や母にはまず、殺される心配はないとたかをくくっていた。
キッチンで食事を取るのは寒いので部屋に持って行き、食べる事にした。
部屋に戻り、エアコンのリモコンを探す。昨日は枕元に置いていたはずだが見当たらない。僕は、苛立って布団を蹴った。すると布団に包まっていたらしく、リモコンが中から見つかった。どうやら、寝返りをしている時に巻き込んでしまったようだ。
エアコンのスイッチを入れて暖房設定を最高にした。僕は、もの凄く寒がりなので部屋をいつも常夏のようにしている。太っているやつは、こんな時期もきっと窓を全開にして涼んでいるに違いない、そして汗を沢山かいているんだ。
小学生の時に親しくしていた太めの大柄な級友が、冬場僕の家に遊びに来た時、寒がりの僕はいつものように暖房設定を最高にしていた。すると、そいつが急に暑がりだして上着を脱いで下着になった。尚も暑いらしく、暖房を切りわざわざ窓を開けて手で扇ぎ涼んでいた。寒がりすぎる僕も異常だが、暑がり過ぎる奴もまた異常だと思った。それ以降、奴とはその事がきっかけで一方的に疎遠になってしまった。
部屋の中はゴミが散乱しているので、自分の居場所をまず確保する。最近は、寝場所すら危うくなっている。それでも、面倒なので掃除をしようとは思わなかった。たまに、気が向くと大きなビニール袋にゴミを入れて部屋の外に出しておく。そうすると、翌日それを見つけた母が捨ててくれる。
僕は、布団の上にあぐらをかき、膝の上に焼きそばがのっている皿をのせた。テレビを観ていても面白くないのでインターネットをする事にした。テーブルの上にあるパソコンの電源を付けた。ハードの中で起動している音がする。僕は、焼きそばをほうばりながら起動するのを待っていた。立ち上がりの合図音が鳴る。とりあえず、いつも見ている掲示板を見よう。僕は、お気に入りに入れているサイトをマウスでダブルクリックした。このサイトは、日本ではかなり有名な掲示板サイトで、最近ではある少年が掲示板内に犯行予告をしていた事でいっきにメジャーになった。僕は、その前からこのサイトを利用していたが、ニュース等で報じられてからは、いっきにアクセス数が増加してしまい、時折、回線が混雑して困ってしまう。それでも、僕は唯一このサイトで自分の意見を言えるので起きたら必ず見ている。スレッドタイトルは、『昭和五×年の引きこもりパート二百三十』だ。これは、その名の通り昭和五×年の家に引きこもっている奴らが集まって他愛もない会話を交わしているのだ。ある一定の書き込み数になるとスレッド自体が消えてしまうので、また誰かが新たにスレッドを立てている。蓋を開ければつまらない書き込みばかりだが、毎日開いているうちにいつの間にかスレットタイトルがパート二百三十まで昇ってしまった。何が楽しいと言われたら、何とも言えないが、ここにいると自分だけではないのだと一種の連帯感が生まれているような気がする。僕はここでは、『ぷー助』と名乗っている。無職のプー太郎からネーミングを取ったのだが、先にプー太郎と名乗る人がいたから名前を変更した。ただ、朝の挨拶を交わし、昨日見た番組の話をしたり家族の悪口を言いあったりする。時には、真面目な奴が「このままではいけない」と説教じみた事をぬかす事もあるが、僕達はそう言う奴を適当にあしらった。

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