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桜井パンタロンの創作小説

RUSH

 
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 栄光に向かって走る あの列車に乗っていこう
 はだしのままで飛び出して あの列車に乗っていこう
 弱い者達が夕暮れ さらに弱い者をたたく
 その音が響きわたれば さらに弱いものをたたく
 見えない自由がほしくて
 見えない銃を撃ちまくる
 本当の声を聞かせておくれよ


 僕の大好きなブルーハーツの歌がこだましている。イヤホンが耳から離れて首にぶらさがっている状態だ。ヒロトの声が雑音のように聴こえる。
 僕は、どこへ向かうのだろう……
 僕は、ただ自由が欲しかった……
 ただ、それだけだ。
 僕は、ただひたすら追ってから逃げている。追いかけてくる女性は誰だか分からない。だが、直感的に殺されると解っている。だから、僕は彼女から逃げるしか術はないのだ。
 心臓の鼓動が高くなり、息遣いも荒くなる。二月と言う真冬の季節にもかかわらず僕は汗だくになり走りだしていく。背後からは、怒声をきかせ追いかけてくる。
 雑居ビルの中へ入り、ひたすら階段を駆け上がって行った。
「待ちなさい!」
 そんな言葉に耳をかさず、ただひたすら階段を駆け上がった。彼女の右手には銃が装備されている。走りながら撃つ技術はもっていないようだ。 
 屋上へと上がりきると僕は、逃げ場を失ってしまった。
「はぁ、はぁ……」
 白い吐息が空へ舞う。
 僕は、一呼吸をおいて、また彼女を背にそのまま走り出した。
 そして、フェンスをよじ登り僕はそこからダイブする。


 ここは天国じゃないんだ かと言って地獄でもない
 良い奴ばかりじゃないけど 悪い奴ばかりでもない
 ロマンチックな星空にあなたを抱きしめていたい
 南風に吹かれながらシュールな夢を見ていたい


 僕は、捨て子だった。十二月の街は、クリスマスシーズンや忘年会で賑わいでいる。そんな街とは離れた公園で寒さに凍えながら赤子の僕は、まるで子犬や子猫を捨てるようにダンボール箱に入れられていた。僕は、裸のままタオルケットに包まれていた。そんな僕を発見してくれる人はいなかった。ここは、寂れた公園でカップルの姿すらなかったのだから。
 僕は、両親の顔を知らない。何故、捨てられたのだろうと疑問に思う事もなかった。僕は、自分が捨て子だとは思っていない。いや、そんな事はどうでも良い話であったから。
 紫煙を吐き出し、黄色い歯をむき出してダンボールの中を覗く男がいた。その男は、僕の顔を見ると寂しそうな顔をした。
 男は、辺りを見渡している。男にも僕が捨て子であると分かっているはずだ。
 僕は、その男に抱きかかえられた。男の胸の中ですやすやと眠りについた。
 なぜだろう。とても居心地良さをその時感じたんだ。

 それから、五年の月日が経つ。僕は、公園で拾われた男に育てられていた。運が良いのか悪いのか。僕は、あの寒空の下で死んでいた方が良かったのかもしれない。
 僕は、その男に名前を付けてもらった。

 「お前」と……

 僕は、その男の事を、「おっちゃん」と呼んでいた。おっちゃんは、僕の事を、「お前」と呼ぶので僕はそれが自分の名前なんだと認識した。
「お前は、馬鹿だからな」
 おっちゃんは、そう言って僕の頭を優しく撫でてくれる。僕は、物心がつくと部屋に置かれているライフルを手に持ち遊んでいた。おっちゃんは、ライフルの構え方、それに人を殺めるにはどこを狙えばいいのか等を教えてくれた。僕は、それが遊びなんだと楽しく覚えていった。僕は、この世には存在しない人間なんだろう。役所や警察には届けていないからである。もしかしたら、生まれてきたことすら知られていないのかもしれない。
  おっちゃんは、僕を幼稚園にも通わせずに毎日家でライフルを撃つ練習をさせた。初めは、面白かったが次第に飽きてしまった僕は、「嫌だ!」と言ってライフルを床に投げ捨てた。おっちゃんは、それを黙って拾い、またマメだらけになった僕の小さな手にライフルを握らせた。
 おっちゃんは、決して僕を叱ったり殴ったりはしない。あまり、喋る事もなく寡黙であった。
 おっちゃんは時々、「仕事へ行って来る」と言ってアタッシュケースを手に持ち、部屋を出て行った。僕は、おっちゃんがいなくなると独り部屋の隅でスナック菓子を食べながらテレビを観ていた。部屋には、テレビの他には、嗜好的な物などなくライフルやナイフ等が置かれていた。
 僕は、戦隊物を観るのが大好きであった。科学戦隊サイバーファイブである。ヒーローが悪者をやっつけてくれるのだ。そして、地球の平和を守ってくれる。僕もいつか、こんなヒーローになりたかった。サイバーレッドが持っているライフルに似たような物が部屋に置いていたので僕は、おっちゃんに、「そのライフルを触らせてくれ」と頼んだ。だが、「これはお前が持つには重すぎるからダメだ」と言われた。もっと大きくなったらこのライフルをくれると言うので僕は、早く自分の体が成長しないかと待ち望んでいた。
 おっちゃんは、僕に勉強を教えてくれるのだが全く理解が出来ず困らせていた。
「小学校に通わせるにも、お前はこの世にいない存在だからな」
 勉強は出来なかったがライフルの扱いにかんしてはおっちゃんに腕前が良いと褒められていた。おっちゃんはスナイパーライフルを手に持ち、「このライフルはイフェゲニー・フェドロビィッチ・ドラグノフが開発したセミオートマックチックの狙撃用ライフルだ」と説明するのだが全く頭に入らなかった。横文字を覚えるのは特に苦手である。僕は、ライフルの形で覚えるしか出来なかったからだ。おっちゃんは、「名前なんて覚えなくて良い。俺の言うとおりにしていれば良いから」と言って僕の頭を髪がくしゃくしゃになる程撫でた。
 僕が解っている事。それは、今僕が練習に扱っているライフルはモデルガンである事だ。実物では僕は重すぎて到底かまえる事が出来ないだろう。マンションの窓を少し開けてスコープで隣の住宅や歩行者に狙いをさだめる。何度もシュミレイションを重ね実践で役にたつように僕は練習をつんでいった。おっちゃんは、咥えタバコをしながら僕に引き金を打つタイミングを教える。僕は、それを手に汗握らせながらじっくりと学んだ。
 毎日家にいるのでは僕も飽きてしまうだろうと、たまにおっちゃんは遊園地に連れて行ってくれたりデパートへ連れて行ってくれたりする事もあった。
 だが、いずれにしろ僕を一人で待たせている事ばかりである。おっちゃんは、「ここで待っていろ」と言って僕にアイスクリームとお金を渡してそのままどこかへ行ってしまう。
 しばらくするとおっちゃんは僕のもとへ帰って来てくれるのだが。
 僕は、一人で待たせられる時間がどれだけ長いか分かっていた。一人でいるのが不安で仕方がない。おっちゃんに持たされたお金を握り締めて僕はじっと帰りを待った。
 おっちゃんは僕にクリスマスプレゼントだと言ってサイバーレッドが持つクラッシャーライフルと言う玩具をプレゼントしてくれた。僕は、それを受け取り喜んだ。
 でも、この玩具の重厚さがない事に対し何か物足りなさも感じた。おっちゃんが、「嬉しくないのか?」と言うので僕は満面の笑みを浮かべ頭を振った。嬉しくないなんてない。だけれど僕がいつも扱っているライフルには、言葉では言い表せないが魅力的な物を秘めていた。この銃で人を殺めると言っても僕には、理解出来ない。幼い僕にそれが理解出来ると言った方が不自然かもしれない。子供は、無邪気に昆虫の羽根をむしり蟻の巣を爆竹で壊す事になんの躊躇いもない。僕が、人を殺める事もこれに近い感覚であったのかもしれない。僕は、馬鹿だから……良い事、悪い事の区別が自分では判断が出来なかった。それは、大人になってからも同じである。

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