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桜井パンタロンの創作小説

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 僕とママとパパはいつものように家族団欒で食事をしていた。 パパとママは、先週から行方不明になっている美和ちゃんの事で話はもちきりの様子である。
「美和ちゃんは、一体どこへ行ったのかしら?」
「誘拐されたのかもしれないな……」
 そんな話をよそに僕は、六等分にカットしている豚カツを口にしていた。
  美和ちゃんは、僕と同じ小学校に通う同級生であった。幼稚園から一緒で美和ちゃんのママと僕のママはとても親しくしていた。週末になると家族ぐるみで食事をすることもしばしあった。美和ちゃんと僕は、四月から地元にある戸枝第二小学校に通うようになったのだが、入学してから一週間後に美和ちゃんは行方をくらました。美和ちゃんは、放課後クラスの女子と校庭でブランコをして遊んでいたそうだ。それが、最後の目撃証言であった。
 テレビから女子アナウンサーが原稿を読んでいる。
「二週間前に行方不明になっていた○○県○○市に住む土田美和ちゃん六歳が、今日午後七時過ぎ、○○県の河川敷に遺体で発見されました。警察は、誘拐殺人事件として捜査する方針です」
 一瞬、ママとパパの顔が凍りついているように見えた。ママとパパは、箸を置き画面に映る現場に釘付けになっていた。僕が住んでいる県の隣で美和ちゃんは発見されたようだ。
「こんな事になってしまうなんて……」
ママは、涙を堪えきれずに泣き崩れた。パパは、ママを抱きしめている。僕は、そんな様子を見ながら黙々とご飯を食べていた。茶碗にご飯粒が残っていたので、それを丁寧に一粒ずつ箸でつかみ口に運んだ。茶碗にご飯粒が残っているとママに、「お百姓様に叱られる」と言われていたので僕はきちんと食べた。
 
 翌日。学校は休校日となり父兄が事件について相談する事になった。ママは、急遽仕事を休み学校へ行った。パパは、取引先との商談があるのでどうしてもぬけられないと言い会社へ向かった。僕は、家で留守番をするようにとママに言われた。ママは、「チャイムが鳴っても決してドアを開けちゃいけませんよ」と厳しく言った。
 僕は、家でテレビゲームをして過ごす事にした。いつもならママに、「ゲームは一時間」と決められていたけれど学校から帰ってくるまではずっと出来るだろう。
 僕は、さっそくゲーム機をセットしてテレビの電源を付けた。
 テレビ画面を観ると、ワイドショーが美和ちゃんの事件について語っていた。
「この事件は、少年犯罪かもしれない」
「いや、自宅で引篭もっている人間が犯行を犯した可能性がある」
 僕は、ビデオ画面にしてゲームを始めた。
 夕方四時頃になるとママは、買い物袋を手に家に帰って来た。
「卓也お腹は空いている?」
 僕は、頭を振った。実は、ママが用意してくれたお昼ご飯を食べてからお菓子を沢山つまみ食いしていたのでお腹がいっぱいであったのだ。
「そう……」
 ママは、小さく呟くとキッチンへ向かった。
 夜、パパが帰って来ると僕達はいつものようにテーブルを囲み食事をする。
「なんだ? 卓也。食欲がないのか?」
 パパが僕に言うとママがそれを制した。
「この子……多分、美和ちゃんの事で気が滅入っているのよ。だから、そっとしておいて」
「そうだな」
 パパは、それから黙って食事を続けた。いつもなら食事時は、ニュース番組を観ているのに今日はテレビを消したまま食事をしていた。ママもパパも一切話しをしない。僕は、そんな姿を見て不思議に思った。パパとママは喧嘩をしているのかな?

 翌日、美和ちゃんの葬儀に行く。クラスメイトや先生。それに校長先生、教頭先生がいた。大人達は、涙を流していた。美和ちゃんのパパが遺影を持って、「今まで美和と仲良くしてくれてありがとうございました」と頭を下げていた。隣では、美和ちゃんのママが涙している。
 クラスの男子は、ちょっかいを出し合って遊んでいた。女子は、「やめなさいよ」と言うのだが言う事を聞かない。僕は、そんな光景をただ傍観していた。
 霊柩車が、美和ちゃんを乗せて走り出す。ママは、ハンカチで涙を拭っていた。パパは、ママの肩を強く抱きしめ走り出す車を見届けていた。

 美和ちゃんの葬儀が終わり自宅へ戻る。
 玄関へ入るとママにお清めの塩を体にまいてもらった。葬儀に参加した帰りは必ずする行為だと言っていた。僕は、その塩を玄関で払って中へ入って行った。
 もうすぐ、アニメが始まる時間だったのですぐにテレビの電源をつける。いつもならママは、「テレビを観る前にきちんとウガイをしなさい」と言うのだが、今日は黙って椅子に腰掛けていた。パパも椅子に腰掛タバコを吹かしている。
 夜は、ママが疲れているので店屋物をとる事にした。僕は、「ピザが良い」と言うのだが、ママに、「今は、麺類しか口に出来ない」と言われ結局、お蕎麦を注文する事になった。
 僕は、天ぷら蕎麦。ママは、ザル蕎麦。パパも僕と同じ天ぷら蕎麦を注文した。
 ママはどうやら食欲がないようだ。あまり蕎麦を口にしない。パパの箸も止まったままである。僕は、パパに、「その海老ちょうだい」と言って器から海老をつかんだ。
 僕の食べる姿をじっとパパとママは見ている。
「どうしたの? なんで食べないの? お蕎麦のびちゃうよ」
「卓也……」
 僕が、食べている横からママはぎゅっと抱きしめた。今日のママはどこか変である。病気になったのかな? パパも元気がない。どうしたのだろう?

 学校へは集団登校で行く事になった。地区の六年生が率先となり低学年と一緒に登校するのだ。
 朝、ランドセルを背負ってママに、「行って来ます」と言った。ママは、「お兄ちゃんの言う事をしっかり聞くのよ」と言うので僕は深く頷いた。
 ドアを開けると隣に住むお兄さんが僕に声をかけた。
「卓也君おはよう」
 僕は、お兄さんに、「おはようございます」と元気良く返事をした。お兄さんは、両手にゴミ袋を持っていた。今日は、燃えるゴミの日である。
 お兄さんは、今年の四月にここへ越して来た。東北に住んでいて、大学進学の為こちらに越してきたそうだ。お兄さんは、ゲームも上手くてとても優しい。僕は、お兄さんの事が大好きであった。
 実は、誰にも言っていないけれど僕は知っている事がある。二週間前にお兄さんと美和ちゃんが一緒に歩いている姿を見ていたのだ。美和ちゃんは、お兄さんの手にひかれ実に楽しそうに話をしていた。僕は、そんな姿を部屋の窓から見ていた。それから数時間後に美和ちゃんのママから電話があった。
「うちの美和はそちらにお邪魔していませんか!?」
 ママは、仕事から帰ってきたばかりであった。
「いえ、うちには美和ちゃんは来ていませんけど」
美和ちゃんのママは憔悴していた。
「美和が家に帰ってこないんです」
 ママはすぐに、「警察へ捜索願を出した方が良い」と言った。パパが帰って来るとママと相談してパパが美和ちゃんを捜しに行く事になった。
 地域住民が、美和ちゃんを捜すのだが結局見つからないまま終わってしまった。警察も出動するのだが一向に美和ちゃんの姿は見つからない。
 それから、二週間後に美和ちゃんは遺体となり発見された。
 僕は、知っているんだ。最後に校庭で遊んでいたのではなく、隣のお兄さんと一緒にいた事を。でも、僕はそれを言わなかった。誰にも聞かれなかったからだ。
 警察が僕の家に事情聴衆をしに来た。ママは、知る限りの事を全て話していた。僕が、玄関に行ってお兄さんと一緒にいた事を話そうとした。だが、ママに、「あなたは、あっちへ行ってなさい」と言うので僕はリビングでテレビを観ていた。誰も僕の話を聞いてくれない。
 一ヶ月が過ぎる。事件は、解決していないようだ。 集団登校はおこなわれたままだ。
 僕は、五年生のケン君が大嫌いであった。ケン君は、いつも僕の通学帽を取りあげて返してくれないのだ。僕が背伸びをして返してもらおうとしてもケン君の背丈には敵わない。それを見かねた六年生の由美お姉ちゃんが、「大田君。卓也君に帽子を返してあげて」と言う。ケン君は、頬を赤らめて素直に僕の帽子を返してくれた。ケン君が僕をいじめるのは、きっと由美お姉ちゃんと仲良くしているからだ。由美お姉ちゃんは僕の手をひき横断歩道を渡る。それを横目でケン君は見ていて面白くなかったのだろう。 美和ちゃんではなく、ケン君がいなくなれば良かったんだ。
 美和ちゃんと僕は同じクラスであった。美和ちゃんが座っていた席には、いつも新しい花が添えられていた。先生が毎日水を変え、枯れてしまうと新しい花と交換していた。クラスの皆は、まるで美和ちゃんがいなかったかのようにしていた。美和ちゃんの机に置いている花が寂しく風になびいていた。
 夜、美和ちゃんのママがやってきた。ママは僕に、「自分の部屋に行っていなさい」と言われた。僕だってママ達の話を聞きたい。
「テレビゲームをして良いから」 と言われたので僕は、嬉しくなりすぐに部屋へ入った。
 しばらくすると、チャイムが鳴る。ママがドアを開けると隣のお兄さんがいた。
「卓也君にこのゲームを貸してあげようと思って来ました」
「そう。卓也なら部屋にいるからあがってちょうだい。もし、良かったらちょっと卓也と遊んでいってもらえるかしら?」
「ええ。良いですよ。バイトも今日は休みなので」
 お兄さんは、玄関で靴を脱ぎ僕の部屋のドアをノックした。
「卓也君。入るよ」
「はあい」
 僕が返事をするとお兄さんは、ドアを開けた。
 お兄さんは、僕の横に座ると新作のゲームを見せた。
「うわあ。これ、お兄さん買ったんだ!」
「もう、クリアしちゃったから卓也君に貸してあげるよ」
「ありがとう」
 僕は、すぐさまお兄さんからかりたソフトを本体に入れた。
 僕が夢中になってプレイする姿をお兄さんは横で微笑ましく眺めていた。
「美和ちゃんって卓也君と同じ小学校だったの?」
 お兄さんは、ずれた眼鏡をあげて話しかけた。
「そうだよ」
僕は、画面を見ながら言葉を返す。
「そうなんだ」
「お兄さんと美和ちゃんって、一緒にいたよね?」
僕の言葉にお兄さんは、一瞬口をつぐんだ。
「……いつの話?」
「美和ちゃんがいなくなった日。うわっ! 死んじゃった」
 僕は、電源をリセットしてまたセーブ画面からゲームを再開した。
「僕は、その日はずっと家にいたから外には出ていないよ。それに美和ちゃんって子は知らないからね」
「ふうん。そうなんだ」
 ドア越しからは、美和ちゃんのママの啜り泣き声が聞こえる。
 お兄さんは、なんだかにやけた顔をしてドア越しから聞こえる声に耳をすませているようだ。
 美和ちゃんのママが帰るとお兄さんも帰って行った。
 リビングへ行くとママは一人で何か物思いにふけっていた。
「ねえ、ママ。お腹空いた」
「カップラーメンでも食べなさい」
 僕は、ぶつぶつと文句を良いながらカップラーメンを棚から取り出した。カップを開けて電気ポットから湯を注ぐ。
 三分間も待つのは、お腹が空いている僕にとっては非常に長かった。
 僕は、大きな声で、「一、二、三、四」と数えているとママに、「静かにしていなさい」と叱られた。ママは、美和ちゃんがいなくなってからヒステリックをおこすようになった。
 一週間が過ぎて、僕達かぞくはいつものようにテーブルを囲んで食事をしていた。
 パパは、ご飯を口にしながらニュース番組を観ている。いつもの家庭が戻っていた。ママも食欲を取り戻し、食事をしていた。
 そんな時、テレビに映る女子アナウンサーが、「速報です」と言って原稿を読み始めた。
「先月、○○県の河川敷で遺体となり発見された○○県○○市に住む、土田美和ちゃんを殺害した犯人が捕まりました。○○県○○市に住む幸田信輝容疑者、二十歳は、美和ちゃんを下校途中に連れ出して殺害をしたようです。その遺体を二週間車のトランクにいれた状態でその後、○○県の河川敷に遺体を放置して逃げたと供述しています。現在、幸田容疑者に殺害動機を聞いているようです」

 画面には、隣のお兄さんの顔が映っていた。パパとママはその姿を見て絶句している。
 僕は、お味噌汁をすすり画面を見ていた。時計を見ると、もうそろそろ僕がいつも観ているバラエティー番組が始まる時間帯だ。僕は、チャンネルを変えてもらおうと思った。だが、パパやママが画面に釘付けになっているのでとても変えてくれとは言えなかった。しぶしぶ、僕もニュースを観ている。
「まさか……彼が犯人だったなんて」
パパは、画面にむかって話した。
 二人は、信じられないと言った面持ちである。
 パパとママは、ニュース番組が終わると二人で話し始めた。僕は、食事が終わると自分の部屋へ行った。パパとママが話しこむといつも長いので、こう言う時はゲームが出来る絶好のチャンスなんだ。僕は、すぐさまゲーム機の電源をつけ、隣のお兄さんからかりたソフトで遊んでいた。
 二十一時になるとママは、「卓也! 歯磨きをして寝なさい」と言った。
 僕は、ママに言われたとおりに歯磨きを済ませベッドの中へ入った。

 一ヶ月が過ぎると街は、いつもと変わらない様子になっていた。集団登校、下校も解除されて今は、一人で学校へ行っている。ケン君と一緒に行かなくなって良かった。
 クラスは、いつもと変わらず男子も女子も賑やかでいる。そう、いつもと同じなんだ。
 でも、僕がお兄さんからかりたソフトをクリアしたので返しに行ったのだが、お兄さんはいないようだ。何度もチャイムを鳴らすが一向に応答はしない。何故だろう。
 一週間後。夜、僕とママとパパは夕食を食べていた。そこへ、チャイムが鳴る。ママが玄関へ向かう。僕もママの後ろをついて行った。
 ドアを開けると隣のお兄さんが立っていた。
「この度は、大変ご迷惑をかけました」
 お兄さんは、深々と頭を下げている。
「本当に大変な事になったわね」
「ええ。今は、実家の両親が兄の事で疲れているので、学校は休学して一度実家に帰る事にしました。まさか、兄が僕の家に泊まりに来てこんな事件を犯すなんて思ってもいませんでした。美和ちゃんの両親になんと言っていいやら……」
「辛いのも分かるけれど、あなたはあなたよ。しっかりして」
ママは、そう言って涙するお兄さんを励ましていた。
「はい。ありがとうございます」
「それにしても本当にあなたに良く似たお兄さんなのね」
「そうですね。兄と僕は双子ですので……兄は、中学生の頃から家で引篭もった生活をしていました。それで、たまには違う環境に行くのも良いのではと思いまして僕の家に泊まりに来たのです。それが、今回このような悲劇がおきるとは……」
 二人の会話は途切れてしまった。僕は、ママの傍からお兄さんに話しかけた。
「お兄さん……かりたソフトを返さないと……」
そう言うとお兄さんは、僕の頭を撫でた。
「良いよ。それは卓也君にあげる。僕の部屋にあるソフトも卓也君に全部あげるよ」
「本当に!? お兄さん、ありがとう」
お兄さんは、本当に優しい。僕は、お兄さんの事が大好きだ。




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