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桜井パンタロンの創作小説

why?


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 喧騒とした街並み。人通りが激しく上の空でいれば通行人にぶつかってしまう。ここは夜も眠らない街、歌舞伎町。通りでは、昼間にもかかわらずホストが街行く女性に声をかけている。近年、風営法の規定により午前一時から日の出までの営業は禁止とされていた。今では、ホストクラブやキャバクラも深夜営業を禁止されているので午前五時からの営業を盛んにおこなうようになった。中には警察の目を掻い潜って深夜営業をしている店もあるようだが大抵は風営法にのっとった営業をしていた。
「ちょっとすいません?」
 黒いスーツに髪は金色に染めている男が信号待ちをしている女性に声をかけている。
「……」
 二人組みの女性は男の言葉に反応せず会話を続けていた。
「少しでも良いから話を聞いてもらえないかな?」
「……」
 信号が青に変わると女性達は歩き出した。その横でひたすら声をかける男。
法律では人の前に立ちふさがる行為、つきまとう行為を禁止していた。俗にキャッチとも呼ぶがそれも平然と歌舞伎町界隈ではおこなわれている。
 昼間からホストや風俗店の呼び込み、中には高校生がうろついている。
七月の初旬。学生達はもうすぐ夏休みになる季節であった。
 セイントラルロード通りにあるファーストフード店で、制服を着た女子高生が携帯電話をいじりながら友人と会話をしていた。
「ねえ、この動画知っている?」
 少女は携帯電話を友人の前にむける。友人は、フライドポテトを口にしながらその画面を覗いた。
「ああ、知っている。だってこれ有名じゃん」
 携帯画面に映し出されていたのは、女性が波打ち際にはしゃぐ姿であった。
「春奈の新しい動画は持っている?」
「何!? それ、知らないんだけど」
 友人は、瞼を瞬かせ好奇心を掻きたてた。驚いて瞬きをすると何十にも重ね塗りしているマスカラがまるで蝶が羽をバタつかせ粉をふいたかのような様子に見られた。
 少女は自慢げに春奈と呼ぶ女性の動画を見せた。
 女性は、ロッジにでもいるのだろうか周囲は森林に覆われていた。男性の声も聞こえる。おそらく動画撮影をしているのは女性の恋人であるだろうと推測する。
「それ、どこで手に入れたの?」
 友人は、少女にしきりに聞いていた。
「なんか、クラスメイトから昨日メールが来たんだよね」
 少女達が何故これほどまでに変哲もない動画に一喜一憂しているのか。それには一つの理由があった。春奈……この動画に映された女性は半年前に行方不明になっていたのである。彼女は、歌舞伎町のとあるキャバクラに在籍をしていた。客受けも良かった。年齢も二十歳であり容姿端麗で街を歩けば男性に声をかけられる事もしばしあったそうだ。ニュースになる程の事件でもなく三面記事に載ることもなかった。春奈……初めは名前も知らない女性であったのだが女子高生の間でたちまち噂が広まりインターネットの中でも詳細を突きとめようとする輩が現れだした。少女達の噂では、殺された女性の怨念が動画に宿り映し出されているのではないか? 実は、どこかに監禁をされているのではないか? 実は、平然と消えてどこかの島で満喫をしているのではないか? 憶測が憶測を呼び巷で話題になっていた。どこの誰が新しい動画を発信しているのかは謎である。どうでも良い悪戯メールだと思っていた人々も行方不明者のメッセージではないかと騒ぎ出していた。
 少女達に送られてくる文面から抜粋する。

 私を助けてください。私を殺した犯人は平然として生きています。そんなあいつが憎い。

 添付ファイルとして日常的な動画が添えられていた。残酷な描写でもなければ霊的な描写でもない映像である。それが、たちまち噂になった。毎日、毎日、人から人へとメールが送られ一躍時の人となった。この女性は一体誰なのかと思う者もいれば悪戯好きな輩が作成した代物だと思う者もいた。人それぞれの価値観なのだが、常日頃と平凡な生活に辟易している者も中にはいる。それが、女子高生だと固有名詞で呼ぶのはいささか滑稽な話だが流行に敏感な彼女達だからこそ、この変哲もない動画に世間を騒がせる結果になった。
 この噂を週刊誌が取り上げると動画の人物であると言う女性から連絡が多数よせられた。我こそはと手をかざすのだが、動画の女性に似ているようで似ていない。動画の解像度も良くないので自己申告をすればそれまでの話である。メディアとしては、この女性が何故これ程の噂が飛び交ったのかと真相を調べていた。春奈と噂されたのはインターネット掲示板の書き込みからである。複数の男性が、「ラブパラダイスの春奈ではないか?」と囁き始めたのだ。新宿コマ劇場付近にあるキャバクラに在籍していた春奈と言う若い女性が突然消えたと言うのだ。店内にいるボーイに聞けば、「春奈は、大学が忙しいから辞めた」の一点張りであった。客には春奈が突然消えた事は伝えていない。店側のイメージを悪くするだけだからだ。春奈は半年前に突然姿を見せなくなった。サブマネージャーが携帯電話に連絡してもつながらない。この業界で飛ぶことはざらであるのでさして問題にもしなかった。春奈は身寄りもなく一人暮らしをしていた。キャバクラに席を置いたのは中学を卒業してからだそうだ。初めは横浜で寮暮らしをしながら生活をする。転々と店を変えていたようだが横浜から移動はしなかった。売り上げもあり指名客もいた。そして、たまたま新宿で買い物をしている時にスカウトされたのだ。待遇も横浜のキャバクラより良かったので一年半前から歌舞伎町にうつった。春奈は、すぐに売り上げに貢献する。もともと、横浜での指名客がいたので太客にだけ連絡した。他の細客は全て切った。それくらいの客ならばすぐにつくだろうと睨んでいたからだ。場外指名をとることは彼女にとっては当たり前のようであった。勤務態度も良く出勤率も高く指名客は春奈の出勤日は必ずといって足を運んでくれた。彼女は、絶対に枕営業をする事はなかった。これは憶測でしかないのだが。やはり、いかがわしい店と違い客はキャバクラ嬢と擬似恋愛を楽しむ場であるからだ。もしかしての考えを持つからこそ目当ての女性に入れ込むわけである。中には、付き合う例もあるようだが店側としてはその女性が辞めてしまう恐れがあるので避けたい部分であった。いかに女性を洗脳し働かせるのかが重要点である。春奈は仕事として割り切っていたようだ。同伴出勤もするが、休日に客と遊ぶ様子は見受けられなかった。春奈が突然姿を見せなくなっても警察に捜索願を出すものがいるわけでもなく月日は経っていった。それが、突然女子高生の間で春奈が噂の対象になっているとは思いもしなかった。それを店内で働くボーイが、「これ、春奈さんじゃないですか?」とマネージャーである沢村に動画を見せた。
 沢村は春奈を可愛がっていた。そして、恋愛対象として見ていた。店内での恋愛はご法度である。もし、それがばれてしまえば罰金と店を辞めなければならない。へたをすれば暴行される可能性もある。しかし、沢村は何度も春奈をものにしようとアプローチした。いつも従業員には、「店の女に手を出すな」と念押して言っていたのだが。
春菜をスカウトしたのは沢村である。新宿界隈で買い物をしていたところへ声をかけたのがきっかけである。会話の受け答えも良く、勘で水商売の女だと察知した。春菜に横浜での時給を聞くと沢村はその額より多めの金額を提示した。「寮暮らしは嫌」と言うので引越し費用も負担すると沢村は約束し移動してくれると頷いてくれた。春菜ならば、この歌舞伎町でやっていけると確信していたのだ。沢村の一目惚れであったのかもしれない。彼女の大きく透き通った瞳に吸い込まれている自分がいた。公私混合ではいけない。あくまでもスカウトであるのだ。女が欲しければいくらでも手に入る。事実、沢村には数人の女性と付き合っていた。中には女子高生もいる。女に不自由する事は決してなかった。それは、彼の中世的な顔立ちもあるだろう。沢村は高校を卒業すると同時にホストクラブの門を叩いた。沢村は容姿が良く、また会話術にたけていた。わずか、二ヶ月でナンバーワンに昇りつめる。初めは、外回りだと先輩に言われキャッチばかりの日々を過ごした。何度もばからしいと思い飛ぼうと思った。しかし、寮住まいで実家は関東県内ではなかったので逃げる事も出来なかった。それから、努力の賜物であろう一ヶ月も経たずに指名を取れるまでになったのだ。そんな沢村だが、一年半であっさり引退してしまった。原因は肝臓を痛めてしまったのである。毎日、アルコールを大量に摂取して嘔吐の繰り返しであったからだ。沢村の引退日は盛大に執り行われた。カクテルグラスを積み込みシャンパンタワーを作り上げた。そこへ、プラチナのドン・ペリニヨンが注がれる。周りにいるヘルプがコールをかけると一本八十万するボトルは一気に飲み干された。それが、幾度となく繰り返される。沢村自身もその日は体調を気にせず流し込んだ。胃が焼けるように熱い。
この日だけでどれだけの売り上げを稼いだのだろう。ホスト人生で一番の記録である。このご時勢にプラチナを空ける客がいるのだから驚きである。その客が二十代前半の女性と言えばまた驚くだろうが彼女達は、沢村のファンであり沢村を愛していた。キャバクラ嬢もいれば風俗嬢もいた。ほとんどの客がそのいずれかに該当している。ホストとして華やかに幕を閉じられるのも客があってこそ成り立つことである。この恩は一生忘れないであろう。
 今まで月四日の休みでほとんど休暇のなかった沢村は実家に帰り半年程なにもせず過ごしていた。それから知り合いから連絡が入り、「うちの店に来ないか」と誘われた。それが今日の沢村である。いくら、元ナンバーワンホストと言え好待遇ではなく、ボーイからスタートであった。それでも、ホストで培った経験を生かし数年でマネージャーに昇格をした。今では、店の経営を任せられている。
沢村は、春奈が連絡もせずに仕事を休むとは思えなかった。春奈の住所は、履歴書を見れば一目瞭然である。沢村は、記載されていた住所へ足を運ばせた。だが、その場所には別の住人が住んでいた。春奈は何も言わずに引越しをしていたのだ。
「たしかに、これは春奈だな」
 沢村は加えタバコをしながらまじまじと動画を見ていた。春奈は波打ち際ではしゃいでいる。男の声がするので携帯電話に耳を近づけた。
「男の声がするな。動画を持っていると言う事はお前が撮ったのか?」
 沢村の目は鋭くボーイを見つめた。
「いえ、違います。この動画は僕が撮ったわけではないんですよ」
 ボーイはひたすら否定をする。
「これ、今うちの大学で噂になっている動画なんです」
「噂?」
「はい。一ヶ月前からなんですが、友人からチェーンメールが来たんですよ」
 ボーイの言うチェーンメールとは俗に不幸の手紙のように、不特定多数の人々の間を増殖しながら転送を目的とした電子メールの事である。
「マネージャー。このメールを見てください」
 沢村はその動画が添付されたメールを見た。
「私は、殺された。犯人が憎い。このメールは怨念である。時期にあいつのところへ届く事を祈っている……」
 沢村はその文章を読み上げた。
「どういう意味だ?」
「僕にもさっぱり分からないです。ネットでも噂がたっていてラブパラダイスに居た春奈だって言う書き込みが多数あるんです」
 沢村には理解する事は出来なかった。春奈が突然行方をくらませ動画が飛び交っている。これは誰かに向けてのサインであるのか?
「他にも」
 ボーイは最近仕入れた春奈の動画を見せた。今度は、ロッジではしゃぐ光景だ。そこにも男の声がした。同じ声である。顔は一切映っていないのでどのような人物か確認がとれないのは残念であった。この会話から察すると男と春奈は深い関係であるようだ。沢村の推測では店内で春奈と付き合っている従業員はいないと思った。すると客の中に意中の人物がいたと言う事なのか? 春名はそんな素振りはみせていなかった。だが、女のする事を信じてはいけない。影で何を考えているか見当がつかない事もある。どちらにせよ春奈には恋人がいた。それが、もっともな考えである。噂がたっているのは店にとっては大きな痛手となるだろう。警察が事情聴取に来るのは時間の問題である。だが、春奈が本当に殺されたと言う証拠はない。この動画にせよ春奈と言う根拠はどこにもない。もし、本人だとしてもその深い仲であった男とどこかにいるかもしれない。噂など気にする事もないだろう。沢村は気を取り直しミーティングを始めた。


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